励起状態に対する(定常状態)変分法について
「変分で求めた基底エネルギーは、真の基底エネルギーよりも高い」のは良い。
しかし、「(定常)変分で求めた励起状態エネルギーは、真の励起状態エネルギーよりも高い」ことの証明は、ネット上でチラホラ見掛けるが、間違っている。励起状態に関しては、何も保証されない。
言葉の整理として、変分法で求めた状態(波動関数)をで表し、真の波動関数をとする。
真の波動関数はハミルトニアンの固有状態であるから、以下が成り立つ。
しかし、変分波動関数はの固有状態ではないから、期待値としてしかエネルギーを定義出来ない。
これを用いて、まずは基底状態に関する証明から見てみる。
これは合っている。
問題は励起状態である。
他のサイトでの説明では、励起状態に対して であるところを、としている。
つまり、に置き換えて話が進んでいる。
この波動関数の置き換えがおかしい。
- 基底状態を「変分」で求める。(したがって得られる基底状態はではなく、である。)
- 「変分」基底状態に直交する条件を課して変分を行うことで、「変分」第一励起状態が求まる。
- 「変分」基底状態と「変分」第一励起状態の両方に直交する条件を課して変分を行うことで、「変分」第二励起状態が求まる。
以下、省略。
つまり、変分波動関数で閉じており、真の波動関数は出て来ない。
それは当たり前で、真の波動関数が求まるなら変分なんかする必要が無い。(計算が早いから近似的に欲しいとか、そういう需要はあるかもしれないが、それは完全に別用途である。)
そのため、は上の手続きから保証されているが、一般にであり、である。
そして、具体的なを知らないのだから、と直交化させるような手続き(例えばGram-Schmidtの正規直交化法とか)は不可能である。
したがって、真の波動関数で変分波動関数を展開するときには、いつでも全成分が必要になるはずであり、である。
このために、変分励起状態においては、一般に厳密解に対してエネルギーが高いか低いかは判断出来ない。
ローレンツ関数の積分値
よく忘れるのでメモ。
の積分変換と、が思い付けば勝ち。
ゼロとの掛算はゼロに戻る証明。
和の単位元0は、あらゆる積の演算に対して自分自身に戻る。
この性質は、体の定義には含まれておらず、定理として導かれる。
そこで、体に含まれる元に対して、であることを証明する。
先に、後で使う定理を導いておく。
以下証明。和の単位元0の性質より、
であるから、
「自分自身と足して自分自身に戻るものはゼロ」ということを表している。
以下、お目当ての証明に戻る。
前回の時もそうだが、単位元0を如何に弄り倒すかがポイントのように思われる。
koideforest.hatenadiary.com
和の単位元0の性質から、
分配律(和と積が混ざる唯一の律)より、
したがって、先に示した定理を使えば、証明が完了する。
和の逆元が唯一つ存在することの証明。
この手の問題は、ついつい当たり前として証明をサボってしまうので、一つ一つ丁寧にやっていくことにする。
体において、とすると、
となる逆元が存在する。
は和において単位元の役割を果たす。
この時、逆元が唯一つしか存在しないことを、単位元および逆元の性質、交換律そして結合律を使って証明する。
証明の方法としては、背理法に属すると思われる。
背理法の厳密な定義については、以下を参照。
koideforest.hatenadiary.com
「逆元が以外に存在する」と仮定して、そこから「何かしら」の矛盾が引き出せればそこで証明完了となる(仮定の否定が真になる)。
「逆元が以外に存在する」を定式化すると、
となる。
ここから「何かしら」の矛盾を示せば良いが、「」が既に現れているため、「」を目指せば矛盾を導き易そうだなと発想する。
まずは単位元の性質から、
次に、仮定より
結合律を使って、
交換律を使えば、
逆元の性質から、
交換律より
単位元の性質から、
したがって、が言えたので、仮定であると矛盾し、仮定の否定「逆元は以外に存在しない」=「逆元は唯一つ」が真であることを証明出来た。
上の操作は、結局、「」、つまり「項の移行」を厳密に行ったということに他ならない。
「項の移行」の操作をまとめれば、
と言える。
多変数関数の連続性
変数が増えると、一見連続そうに見えても、不連続な場合がある。
例1:
import numpy as np from matplotlib import pyplot as plt def arbitrary_function( x, y ): return ( x - y ) / ( x + y + 1e-7 ) N = 1000 x_min, x_max = -1, 1 y_min, y_max = -1, 1 x1 = np.linspace( x_min, x_max, N ) y1 = np.linspace( y_min, y_max, N ) X, Y = np.meshgrid( x1, y1 ) Z = np.zeros( ( N, N ) ) for ix, x_ in enumerate( x1 ): for iy, y_ in enumerate( y1 ): Z[ iy ][ ix ] = arbitrary_function( x_, y_ ) # Caution: not Z[ ix ][ iy ] fig = plt.figure( figsize = ( 5, 4 ) ) ax = fig.add_subplot( 1, 1, 1 ) c = ax.pcolor( X, Y, Z, cmap = 'viridis', vmin = -1, vmax = 1) # or "pcolormesh" fig.colorbar( c ) plt.savefig("discontiniuation1.png") plt.show()
上で不連続であることがわかる。
例2:
def arbitrary_function( x, y ): return 2 x y / ( x**2 + y**2 + 1e-7 )
で不連続になっている。
これは、軸上および軸上で値ゼロだが、対角線方向では-1 or 1の定数となるため、原点付近の微小量が方向に強く依存してしまっているためである。
マクスウェル方程式とゲージ変換
ほぼ自分用の初等的なメモ
Wikipedia
マクスウェルの方程式 - Wikipedia
マクスウェル-ガウスの式
磁化保存の式だけ人の名前がついていない。
ファラデー-マクスウェルの式
アンペール-マクスウェルの式
ここから、各ポテンシャルとそれらのゲージ変換不変を導く。
磁化保存の式から
よって、ベクトルポテンシャルは変換に対して磁場を不変に保つ。
次にファラデー-マクスウェルの式より、
スカラーポテンシャルの負符号は慣習である。
これにより、
電場を不変に保つようなスカラーポテンシャルの変換を考える。
これで、とをゲージ変換も含めて導出することが出来た。
ここだけなら、マクスウェル方程式のうち二つだけで済む。
次に、クーロンゲージとローレンツゲージについてまとめる。
クーロンゲージは「スカラーポテンシャルを電荷だけで表したい」というものである。
使う式は、マクスウェル-ガウスの式である。
したがって、となるようにゲージを選べば()、
のようにスカラーポテンシャルに対するポアソン方程式が得られる。
この、のゲージの取り方をクーロンゲージと呼ぶ。
ローレンツゲージは、「(電荷、スカラーポテンシャル)と(電流、ベクトルポテンシャル)の組の対応を明確にしたい」というものである。
使う式は、まだ使っていなかったアンペール-マクスウェルの式である。
外積の二個掛けは、以下のベクトル解析の公式が知られている。
したがって、
ここで、となるようにゲージを選ぶのがローレンツゲージである。
ローレンツゲージをとれば、ベクトルポテンシャルに関する波動方程式が得られる。
一方、マクスウェル-ガウスの式からは、ローレンツゲージを採用することでスカラーポテンシャルに関する波動方程式が得られる。
このように、対応関係がハッキリとわかる。
ポテンシャルとゲージ変換を導出することで、マクスウェル方程式の全ての式を満遍なく触ることが出来るのは、非常に教育的だと思った次第である。
背理法をよく考えながら、Hohenberg-Kohnの第一定理を考える。
Hohenberg-Kohnの第一定理は以下の様なものである。
「外場と基底状態電子密度は一対一対応する。」
これは、背理法で証明されることがほとんどだろう。
しかし、背理法そのものについて学ぶことは、あまりない気がしたので、ここでまとめる。
「命題」を、「真(True: T)か偽(False: F)のどちらかに定まる文」と定義する。
命題の間になんらかの結合規則を用いることで、新しく命題を作ることが出来る。
例えば、は「が共にFでない限りT」とする結合規則であり、一方では「が共にTでない限りF」とする規則である。
集合で考えると、は集合和で、は共通部分である。
また、が、全く同じ真偽値を取るとき、と書き、「同値である」と言う。
更に、はの「否定」であり、真偽をひっくり返したものに対応する。集合では補集合がそれに当たる。
ここから、重要な結合規則として、を考える。これは「含意」と呼ばれ、集合論ではに対応する。
言葉ではよく、「ならば」と表現され、集合との対応も良い(Pの中に入っていればQも同時に満たす:十分条件)のだが、一方で真偽表現ではクセがある。
含意の同値表現は、である。ここで躓き易いのは、「がFならば問答無用ではT」である点である。
「ならば」と言うとき、無意識のうちに「 T」という仮定をしている。もっと言えば、「 F」のときには興味が無いのである。
そのため、「 TのときにがTなのかFなのか」ということに集中するため、「(F T」となるように定義しているわけである。
集合的にも、がTであれば、は全ての範囲を覆いつくしているのでTと言える。
それで、やっと背理法であるが、
「」、つまり、証明したい命題の否定に対して、「何かしらの命題」に対する矛盾が示せれば、がTであると言える。
このは、自分で設定する必要があるため自由度が高く、背理法での証明がよくわからない一つの要因だと思われる。
以下、背理法が正しいことを示す証明である。(三段論法と対偶は断り無しに使った。)
これを元に、Hohenberg-Kohnの(第一)定理を考えれば、「外場と基底状態電子密度は一対一対応しない。」というのがであり、は自分で設定する必要がある。
実際の証明では、「そもそも一対一対応とは何か?(式でどう表すか?)」から考える必要があるが、最終的には「基底状態のエネルギーが満たすべき性質」をとして矛盾を導く。
背理法の証明で、「これはどこから出て来た?」と思うことが多かったが、その理由が背理法の高い自由度に因っていたことがわかった。