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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

励起状態に対する(定常状態)変分法について

「変分で求めた基底エネルギーは、真の基底エネルギーよりも高い」のは良い。

しかし、「(定常)変分で求めた励起状態エネルギーは、真の励起状態エネルギーよりも高い」ことの証明は、ネット上でチラホラ見掛けるが、間違っている。励起状態に関しては、何も保証されない。

言葉の整理として、変分法で求めた状態(波動関数)を \psiで表し、真の波動関数 \phiとする。
真の波動関数 \phiハミルトニアン Hの固有状態であるから、以下が成り立つ。

\displaystyle
H \phi_n = E_n \phi_n
しかし、変分波動関数 \psi Hの固有状態ではないから、期待値としてしかエネルギー \tilde Eを定義出来ない。

\displaystyle
H \psi_n \neq \tilde E_n \psi_n
\\
\displaystyle
\tilde E_n = \frac{ \left\langle \psi_n | H | \psi_n \right\rangle }{ \left\langle \psi_n | \psi_n \right\rangle }
これを用いて、まずは基底状態に関する証明から見てみる。

\displaystyle
\tilde E_n
  = \frac{ \left\langle \psi_0 | H | \psi_0 \right\rangle }{ \left\langle \psi_0 | \psi_0 \right\rangle }
  = \frac{ \sum_{nn'} c_n^{0*} c_{n'}^0 \left\langle \phi_n | H | \phi_{n'} \right\rangle }{ \sum_{nn'} c_n^{0*} c_{n'}^0 \left\langle \phi_n | \phi_{n'} \right\rangle }
\\
\displaystyle
\qquad
  = \frac{ \sum_{n} |c_n^{0}|^2 E_n }{ \sum_{n} |c_n^0|^2 }
  \ge E_0 \frac{ \sum_{n} |c_n^{0}|^2 }{ \sum_{n} |c_n^0|^2 }
  = E_0
これは合っている。

問題は励起状態 \tilde E_n \, (n \neq 0)である。
他のサイトでの説明では、励起状態に対して \psi_m = \sum_{n=0} c_n \phi_n であるところを、 \psi_m = \sum_{n>m} c_n \phi_n としている。
つまり、 \sum_{n=0} \rightarrow \sum_{ n >m }に置き換えて話が進んでいる。
この波動関数の置き換えがおかしい。

変分法を用いた励起状態の求め方というのは、

  1. 基底状態を「変分」で求める。(したがって得られる基底状態 \phi_0ではなく、 \psi_0である。)
  2. 「変分」基底状態 \psi_0に直交する条件を課して変分を行うことで、「変分」第一励起状態 \psi_1が求まる。
  3. 「変分」基底状態 \psi_0と「変分」第一励起状態 \psi_1の両方に直交する条件を課して変分を行うことで、「変分」第二励起状態 \psi_2が求まる。

以下、省略。

つまり、変分波動関数 \psiで閉じており、真の波動関数 \phiは出て来ない。
それは当たり前で、真の波動関数が求まるなら変分なんかする必要が無い。(計算が早いから近似的に欲しいとか、そういう需要はあるかもしれないが、それは完全に別用途である。)

そのため、 \left\langle \psi_0 | \psi_1 \right\rangle = 0は上の手続きから保証されているが、一般に \psi_0 \neq \phi_0であり、  \left\langle \phi_0 | \psi_1 \right\rangle \neq 0である。
そして、具体的な \phi_0を知らないのだから、 \phi_0と直交化させるような手続き(例えばGram-Schmidtの正規直交化法とか)は不可能である。

したがって、真の波動関数で変分波動関数を展開するときには、いつでも全成分が必要になるはずであり、 \psi_m = \sum_{n=0} c_n \phi_n である。
このために、変分励起状態においては、一般に厳密解に対してエネルギーが高いか低いかは判断出来ない。