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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

背理法をよく考えながら、Hohenberg-Kohnの第一定理を考える。

Hohenberg-Kohnの第一定理は以下の様なものである。
「外場 V_{ext}基底状態電子密度 n_0は一対一対応する。」
これは、背理法で証明されることがほとんどだろう。

しかし、背理法そのものについて学ぶことは、あまりない気がしたので、ここでまとめる。

「命題」を、「真(True: T)か偽(False: F)のどちらかに定まる文」と定義する。

命題 P, Qの間になんらかの結合規則を用いることで、新しく命題を作ることが出来る。
例えば、 P \lor Qは「 P,Qが共にFでない限りT」とする結合規則であり、一方で P \land Qは「 P,Qが共にTでない限りF」とする規則である。
集合で考えると、 P \lor Qは集合和 P \cup Qで、 P \land Qは共通部分 P \cap Qである。

また、 P, Qが、全く同じ真偽値を取るとき、 P \equiv Qと書き、「同値である」と言う。
更に、 \bar P Pの「否定」であり、真偽をひっくり返したものに対応する。集合では補集合 P^cがそれに当たる。

ここから、重要な結合規則として、 P \Rightarrow Qを考える。これは「含意」と呼ばれ、集合論では P \subset Qに対応する。
言葉ではよく、「 Pならば Q」と表現され、集合との対応も良い(Pの中に入っていればQも同時に満たす:十分条件)のだが、一方で真偽表現ではクセがある。
含意の同値表現は、 (P \Rightarrow Q) \equiv (\bar P \lor Q)である。ここで躓き易いのは、「 PがFならば問答無用で P \Rightarrow QはT」である点である。
 Pならば Q」と言うとき、無意識のうちに「 P \equiv T」という仮定をしている。もっと言えば、「 P \equiv F」のときには興味が無いのである。
そのため、「 P \equiv TのときにQがTなのかFなのか」ということに集中するため、「(F  \Rightarrow Q) \equiv T」となるように定義しているわけである。
集合的にも、 P \subset QがTであれば、 P^c \cup Qは全ての範囲を覆いつくしているのでTと言える。

それで、やっと背理法であるが、
 \{ (\bar P \Rightarrow Q) \land (\bar P \Rightarrow \bar Q) \} \equiv P 」、つまり、証明したい命題の否定に対して、「何かしらの命題 Q」に対する矛盾が示せれば、 PがTであると言える。
この Qは、自分で設定する必要があるため自由度が高く、背理法での証明がよくわからない一つの要因だと思われる。

以下、背理法が正しいことを示す証明である。(三段論法と対偶は断り無しに使った。)

\displaystyle
  \{ (\bar P \Rightarrow Q) \land (\bar P \Rightarrow \bar Q) \}
  \equiv \{ \bar P \Rightarrow ( Q \land \bar Q ) \}
  \equiv \{ (\overline{ Q \land \bar Q }) \Rightarrow P \}
\\
\displaystyle
\quad
  \equiv \{ ( \bar Q \lor Q ) \Rightarrow P \} \equiv \{ T \Rightarrow P \} \equiv P

これを元に、Hohenberg-Kohnの(第一)定理を考えれば、「外場 V_{ext}基底状態電子密度 n_0は一対一対応しない。」というのが \bar Pであり、 Qは自分で設定する必要がある。
実際の証明では、「そもそも一対一対応とは何か?(式でどう表すか?)」から考える必要があるが、最終的には「基底状態のエネルギーが満たすべき性質」を Qとして矛盾を導く。

背理法の証明で、「これはどこから出て来た?」と思うことが多かったが、その理由が背理法の高い自由度に因っていたことがわかった。

参考文献:
https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/mathbook/