nano_exit

基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

3価のTiイオンのLII, LIII端における原子多重項遷移

Ti {}^{3+}の自由イオン状態の L_{2,3}edgeは三本のピークが立つ。

Ti {}^{3+}基底状態で3dが空っぽなので、基底状態の多重項は {}^1S_0となる。
(多重項は {}^{2S+1}L_Jで表される。ただし、 L=0, 1, 2, 3, ... S, P, D, F, ...で表す。)

 L_{2,3}edgeでは、2pにホールが開いて、3dに電子が一個足されるので、

  • 電子配置:2p {}^53d {}^1

出現する多重項は、ホールと電子で同じ(エネルギー準位の順番は逆になる)
なので、2p {}^13d {}^1として捉えると、各軌道に電子が一個だけ入っているので、

イオン全体の角運動量はスピン、軌道それぞれで合成すれば良いので、

この時点で、許される励起後の多重項は、

\displaystyle
{}^1P, {}^1D, {}^1F, {}^3P, {}^3D, {}^3F

更に、スピン軌道相互作用が入って S Lが混ざるので、全角運動量 |L-S| \le J \le L+Sを合わせた多重項は、

\displaystyle
{}^1P_1, {}^1D_2, {}^1F_3, {}^3P_0, {}^3P_1, {}^3P_2, {}^3D_1, {}^3D_2, {}^3D_3, {}^3F_2, {}^3F_3, {}^3F_4

よって、全角運動量 Jに対するに双極子遷移の選択則は \Delta J=\pm1, 0(ただし、 J=0 \rightarrow 0は禁制)なので、許容される遷移は

\displaystyle
{}^1S_0 \rightarrow {}^1P_1, {}^3P_1, {}^3D_1
の三つとなる。