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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

水素分子イオンの結合・反結合軌道

前回、水素分子イオンにおけるハミルトニアンの行列要素を求めた。
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今回は、それらが求まっているとして、結合・反結合軌道がどのようなロジックで得られるかを紹介する。

各水素原子波動関数を基底関数として、その線形結合で水素分子イオンの波動関数を作るとする。

\displaystyle
\Psi = c_1 \psi_1 + c_2 \psi_2

この時に満たされるべきシュレーディンガー方程式は、

\displaystyle
H \Psi = E \Psi

決定したい係数が c_1, c_2と二つあるため、 c_1, c_2に関する方程式が二本必要。
そのために、左から \psi^*_1もしくは \psi^*_2を掛けて、位置変数で積分する。

\displaystyle
c_1 \alpha + c_2 \beta = E (c_1 + c_2 S)
\\
\displaystyle
c_1 \beta + c_2 \alpha = E (c_1S + c_2)

これを行列で表すと、

\displaystyle
\begin{pmatrix}
\alpha & \beta \\
\beta & \alpha
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
c_1 \\ c_2
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
E & ES \\
ES & E
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
c_1 \\ c_2
\end{pmatrix}
\\
\displaystyle
\therefore
\begin{pmatrix}
\alpha - E & \beta - ES \\
\beta - ES & \alpha - E
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
c_1 \\ c_2
\end{pmatrix}
=
O

 c_1, c_2が共にゼロでない解が得られる条件は、

\displaystyle
\begin{vmatrix}
\alpha - E & \beta - ES \\
\beta - ES & \alpha - E
\end{vmatrix}
=
0
\\
\displaystyle
(\alpha - E)^2 - (\beta - ES)^2 = 0
\\
\displaystyle
\alpha - E = \pm (\beta - ES)
\\
\displaystyle
\therefore
E^{\pm} = \frac{ \alpha \pm \beta }{ 1 \pm S}

 E = E^+の時、

\displaystyle
c_1 \left( \alpha - \frac{ \alpha + \beta }{ 1 + S} \right) + c_2 \left( \beta - \frac{ \alpha + \beta }{ 1 + S} S \right) = 0
\\
\displaystyle
c_1 \left( \frac{ \alpha S - \beta }{ 1 + S} \right) + c_2 \left( \frac{ - \alpha S + \beta }{ 1 + S} \right) = 0
\\
\displaystyle
c_1 \left( \alpha S - \beta \right) - c_2 \left( \alpha S - \beta \right) = 0
\\
\displaystyle
\therefore
c_2 = c_1

 E = E^-も同様にして、 c_2 = - c_1が示せる。

したがって、結合軌道 \Psi^+と反結合軌道 \Psi^-が得られた。

\displaystyle
\Psi^+ = c \left( \psi_1 + \psi_2 \right)
\\
\displaystyle
\Psi^- = c \left( \psi_1 - \psi_2 \right)

この時点では、エネルギーの評価をしていないので、どちらが安定化はわからないが、プロットしてみると結合エネルギーが常に反結合エネルギーよりも安定になる。