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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

Crude adiabatic (Crude-Born-Oppenheimer) 近似

以前にBorn-Oppenheimer近似(BO近似)及び断熱(adiabatic)近似について言及した。
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ここでは、またちょっと微妙に違うCrude-BO近似やCrude adiabatic近似を紹介する。

前回で肝となっていたのは、パラメータに依存した演算子を定義したところである。
電子-原子核相互作用演算子 \hat{V}_{en}とすると( \vec{r} = (\vec{r}_1, \vec{r}_2, \cdots)  \vec{R} = (\vec{R}_1, \vec{R}_2, \cdots) )、

\displaystyle
\hat{V}^{R_0}_{en} \neq \hat{V}_{en}
\\
\left. \hat{V}^{R_0}_{en}( \vec{r} ) \right|_{R_0 = \vec{R} } = \hat{V}_{en}( \vec{r}, \vec{R} )
つまり、パラメータ R_0を上手く調節すると、元の演算子に一致する電子位置空間の演算子 \hat{V}^{R_0}_{en}を定義した訳である。

この演算子を含む電子ハミルトニアンの固有状態 \Phi^{R_0}_{e}( \vec{r} ) で、任意の状態 \Psi( \vec{r}, \vec{R} ) を展開すると、

\displaystyle
\Psi( \vec{r}, \vec{R} ) = \sum_k C^{R_0}_{k}( \vec{R} ) \, \Phi^{R_0}_{e,k}( \vec{r} )
この展開係数は、結局は原子核波動関数そのもの C^{R_0}_{k}( \vec{R} ) = \Phi^{R_0}_{n,k}( \vec{R} )であることがわかる。

前回(BO or adiabatic)では R_0 \vec{R}に一致するように選ぶことで、原子核に対する微分方程式を得た。
Crude-BO or Crude-adiabatic では、 R_0を任意のベクトルに固定する(平衡位置に選ぶことがほとんどであろう)。
この場合、電子波動関数 \vec{R}に依存していないので、原子核位置で微分してもゼロになる。

\displaystyle
\nabla_{R_i} \Phi^{R_0}_{e,k}( \vec{r} ) = 0
そのため、BO近似やadiabatic近似で落とす項は元々含まれないことになる。

一方、電子-原子核相互作用は \vec{R_0}でしか完全に取り込めないので、余剰分が出てくる。

\displaystyle
\Delta V^{R_0}( \vec{r}, \vec{R} ) \equiv V_{en}( \vec{r}, \vec{R} ) - V^{R_0}_{en}( \vec{r} )
  = V_{en}( \vec{r}, \vec{R} ) - V_{en}( \vec{r}, \vec{R}_0 )
この余剰分が、非対角項をもたらすことになる。

これらを元に、原子核に対する微分方程式を求めると、

\displaystyle
\sum_k \left( \left(  -\sum_i \frac{\hbar^2}{2M_i} \nabla^2_{R_i} + E^{R_0}_{e,k} + V_{nn}(\vec{R}) \right) \delta_{k'k}
  + \Delta V^{R_0}_{k'k}( \vec{R} ) \right) \Phi^{R_0}_{n,k}( \vec{R} )
  = E \Phi^{R_0}_{n,k'}( \vec{R} )
\\
\displaystyle
\Delta V^{R_0}_{k'k}( \vec{R} )
  \equiv \int d\vec{r} \, \left( \Phi^{R_0}_{e,k'}( \vec{r} ) \right)^* \, \Delta V^{R_0}( \vec{r}, \vec{R} ) \, \Phi^{R_0}_{e,k}( \vec{r} )

そのため、Crude-BOでは \Delta V^{R_0}_{k'k}( \vec{R} )を完全に無視したり、Crude adiabaticでは対角項のみを拾ったりする。

こうしてみると、この原子核に対する方程式は、透熱的な場合における一つの極限のような状態に対応していることがわかる。
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通常のBOやadiabaticの意味で落とす項は、今の場合には全く含まれていないため、通常のBOやadiabaticによる影響はゼロと言える。
その代わりに、ポテンシャル残差による非対角項が生じていて、ここをどうするかで近似の度合いを調節出来る。

 \vec{R} \approx \vec{R}_0の時には良い近似となると容易に想像付くが、 \vec{R}_0から離れると非対角項の影響が顕著になるため、平衡位置からの変位が大きい分子振動よりは、固体中のフォノンの扱いに適していると言える。