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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

非球対称ポテンシャルにおけるT行列

前回、非球対称ポテンシャルの時には、位相シフトがT行列を表すのにあまり役に立たないことを示した。
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今回は、どうやってT行列(の行列成分)を求めるかを考える。
波動関数はT行列を使って次のように書けることを前回示した。

\displaystyle
\psi_{\vec{k} }(\vec{r})
  = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \sum_{L'} \sum_{L} i^l \left( j_l(kr) \, \delta_{L'L} - ik \, h^+_{l'}(kr) \, \tilde{t}_{L'L} \right)  Y_{L'}( \hat{r} ) Y^*_L( \hat{k} )

これは、ポテンシャルの外側の解である。
そこで、内側を含めた一般の動径波動関数 R_{L'L}( r ) \equiv R_{L'L}( k, r ) と定義すると、

\displaystyle
\psi_{\vec{k} }(\vec{r})
  = \sqrt{\frac{2}{\pi}} \sum_{L'} \sum_{L} i^l R_{L'L}( r ) Y_{L'}( \hat{r} ) Y^*_L( \hat{k} )

これをシュレーディンガー方程式に入れると、

\displaystyle
\left( -\frac{1}{2}\frac{d^2}{d r^2} + \frac{ \hat{L}^2 }{ r^2 } + V( \vec{r} ) - \epsilon \right) \sqrt{\frac{2}{\pi}} \sum_{L'} \sum_{L} i^l r R_{L'L}( r ) Y_{L'}( \hat{r} ) Y^*_L( \hat{k} ) = 0
\\
\displaystyle
\sum_{L'} \left( -\frac{1}{2}\frac{d^2}{d r^2} + \frac{ l' ( l' + 1 ) }{ r^2 } + V( \vec{r} ) - \epsilon \right) \sum_{L} i^l r R_{L'L}( r ) Y_{L'}( \hat{r} ) Y^*_L( \hat{k} ) = 0
\\
\displaystyle
\sum_{L'} \left( \left( -\frac{1}{2}\frac{d^2}{d r^2} + \frac{ l' ( l' + 1 ) }{ r^2 } - \epsilon \right) \delta_{L_0 L'} + V_{L_0 L'}( r ) \right) \sum_{L} i^l r R_{L'L}( r ) Y^*_L( \hat{k} ) = 0
\\
\displaystyle
V_{L_0 L'}( r ) \equiv \int d\hat{r} \, Y^*_{L_0}( \hat{r} ) V( \vec{r} ) Y_{L'}( \hat{r} )

ここで、 Y_{L_1}( \hat{k} )を掛けて、 \hat{k}で角度積分すると、

\displaystyle
\sum_{L'} \left( \left( -\frac{1}{2}\frac{d^2}{d r^2} + \frac{ l' ( l' + 1 ) }{ r^2 } - \epsilon \right) \delta_{L_0 L'} + V_{L_0 L'}( r ) \right) i^{l_1} r R_{L' L_1}( r ) = 0

このシュレーディンガー方程式だけを眺める限りでは、「 L_1のラベルって意味あるの?」という感じしかしないが、外側の解を再度眺めると、 L' = L_1の時に裸の球ベッセル関数が入ることが要請されている。
原点近傍では、遠心力ポテンシャルの寄与が支配的であるため、自由解と同じ振る舞いをすると期待出来る。
そのため、微分方程式の初期条件として、 R_{L' L_1}( r \rightarrow 0) \rightarrow j_{l_1}(kr) \, \delta_{L' L_1}が課せられる。
つまり、 L_1は初期条件のラベルとして働いている。

したがって、行列表示で簡潔に表せば、

\displaystyle
(H - E) \left( r \left( c_{L_1} \vec{R}_{L_1} \right) \right) = 0
 L_1を固定した時に、定数倍を含めた波動関数ベクトル c_{L_1} \vec{R}_{L_1} が求まり、それを全ての L_1に対して実行すれば良いということになる。
数値計算上、地味に気を使わないといけないのは、定数倍の c_{L_1}の部分である。
微分方程式では定数倍しても方程式が変わらないため、例えば初期条件の値がずれると、得られた波動関数が解析解に比べて定数倍だけズレて出て来たりする。
これは、次にT行列を求めるところで、少し注意が要る部分だと思う。

波動関数 \tilde{R}_{L'L} \equiv c_L R_{L'L} が上記の方程式から得られたとする。
 R_{L' L}が外側の解の表記と一致することから、

\displaystyle
\tilde{R}_{L'L}( r ) = c_L \left( j_l(kr) \, \delta_{L'L} - ik \, h^+_{l'}(kr) \, \tilde{t}_{L'L} \right)
問題はここからどうやって \tilde{t}を抜き出すかということである。

まず、 c_Lを求めることを考える。
これにはWronskianが便利である。
詳細は省くが、球ベッセル関数と球ハンケル関数のWronskian W( j_l, h^+_l )は、解析的な関数 wで表すことが出来る。

\displaystyle
W( j_l, h^+_l )( k, r ) = j_l \frac{ d h^+_l }{ d r } - \frac{ d j_l }{ d r } h^+_l = w( k, r )

したがって、

\displaystyle
W( \tilde{R}_{LL}, h^+_l )( k, r ) = c_L W( R_{LL}, h^+_l )( k, r ) = c_L W( j_l, h^+_l )( k, r ) = c_L w( k, r )
\\
\displaystyle
\therefore
c_L = \frac{ W( \tilde{R}_{LL}, h^+_l )( k, r ) }{ w( k, r ) }

あとは、簡単な式変形から、

\displaystyle
\tilde{t}_{L'L} = \frac{ \tilde{R}_{L'L}( r ) / c_L - j_l(kr) \, \delta_{L'L} }{ ik \, h^+_{l'}(kr) }

行列の微分方程式を解いたり、Wronskianを求めたり、面倒臭いことが多いが、逆に球対称な時がどれだけ簡単かを教えてくれている気がする。