時間反転演算子は反ユニタリー演算子である。
反ユニタリー演算子は、ユニタリー演算子と反線形演算子の積で表される。
教科書によって、「時間反転演算子のエルミート共役は取ってはいけない」と書いてあったり、普通にエルミート共役が定義されていたりする。
ここでは、を何故考えてはいけないかを考察する。
エルミート共役をわざわざ取りたいのは、以下のような関係を利用したいからである。
内積は、適当に基底を選べば具体的に計算できる。
見た目的には、とは対等な関係のように見える。
しかし、数学的には、ケットベクトルはブラベクトルを入力して内積を返す線形汎関数で定義されている。
多分と書き換えると分かり易いかも。
ここで、が線形結合で表されているとすると、
線形汎関数の感じが伝わると思う。
ここで、反ユニタリー演算子をに掛けると、
上ではが基底ベクトルと仮定した()。
基底ベクトルでなくても、ユニタリー変換でいつでも基底の線形結合で書けるので、一般性は失われていない。
それで、今度はブラベクトルに作用させたときに上記と同じものを与えるにはどうしたら良いを考える。
だがしかし、どう足掻いてもにを作用させるだけではは作れない。
実際には、「全体の複素共役を取る」などをすると対応出来るは出来るのだが、それは元々の線形汎関数の能力を超えているので、上手く定義出来ないのである。
なので、は常にに掛けるようにして、には掛けないからエルミート共役はわざわざ定義しない、という形を取るのである。
参考文献:J. J. サクライ「現代の量子力学・下」