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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

円周率が3.8より大きい証明(?)

円周率が4である動画が話題になった。
「円周率=4」を証明してみせましょう。“3.14…”を覆す新理論(?)に驚愕する声多数! 理数系学生「反論思いつかなくて草」
これと似たようなことを自分でもやってみた。

イデアは「波数が無限に大きく、かつ振幅が無限に小さい正弦波の長さは、(見た目)直線と同じ」というものである。
f:id:koideforest:20181121071037p:plain
 n=100000ではもはや直線にしか見えない。
波数が大きくなるにつれて、徐々に振幅を小さくしているが、実はこれらの線の長さは全て同じである。
 \sin(x) 0 \le x \le 2 \piまで線積分すると、 4 \sqrt{2} E( 1/2 ) E(k):第二種完全楕円積分)であるので、

\displaystyle
2 \pi = 4 \sqrt{2} E( 1/2 )
\\
\displaystyle
\therefore \pi = 2 \sqrt{2} E( 1/2 ) = 3.82... > 3.8
と数値的に求まる。

以下、種明かし。
次の正弦波を考える。


\displaystyle
y = \frac{ \sin( n x ) }{ a }

積分がし易いように、媒介変数表示で表すと、

\displaystyle
x = \theta, \quad y = \frac{ \sin( n \theta ) }{ a }

よって、 0 \le \theta \le 2 \pi における正弦波の長さは、 1/4周期を4倍して、それを n個考えれば良く、1周期  = 2\pi / n だから、

\displaystyle
4 n \int^{\pi/2n}_0
  \sqrt{ \left( \frac{ d x }{ d \theta } \right)^2 + \left( \frac{ d y }{ d \theta } \right)^2 } d \theta
  = 4 n \int^{\pi/2n}_0
  \sqrt{ 1 + \frac{ n^2 }{ a^2 } \cos^2 ( n \theta ) } \, d \theta
\\
\displaystyle
  = 4 \int^{\pi/2}_0
  \sqrt{ 1 + \frac{ n^2 }{ a^2 } \cos^2 ( \theta' ) } \, d \theta'
ここで、 \theta' = n \theta とした。
見るとわかるが、 r \equiv \frac{ n^2 }{ a^2 } = constant であれば  n, a \rightarrow \infty であっても線分の長さが変わらない
ここでは  r = 1 (つまり通常の正弦波)として計算を進める。


\displaystyle
4 \int^{\pi/2}_0
  \sqrt{ 1 + \cos^2 ( \theta' ) } \, d \theta'
  = 4 \int^{\pi/2}_0
  \sqrt{ 1 + 1 - \sin^2 ( \theta' ) } \, d \theta'
\\
\displaystyle
  = 4 \sqrt{2} \int^{\pi/2}_0
  \sqrt{ 1 - \frac{1}{2} \sin^2 ( \theta' ) } \, d \theta'
  = 4 \sqrt{2} E\left( \frac{1}{2} \right)

ここで、 E(k) は完全第二種楕円積分として、次のように与えられる。

\displaystyle
E\left( k \right)
  = \int^{\pi/2}_0 \sqrt{ 1 - k \sin^2 ( \theta ) } \, d \theta
一見すると簡単そうだが、初等的には歯が立たないことが知られている。
楕円積分 - Wikipedia

 E(1/2) は 1.35064... と数値計算で求まるので、冒頭にあったように、 2 \sqrt{2} E( 1/2 ) = 3.82... > 3.8 であることがわかる。

今は  r = 1 と置いたが、論理的には  r はいくらでも大きく出来るので、 \piはいくらでも大きくなることになる。
本当に  \pi が3.14... より大きいことを証明するためには、下限を求める必要がある
実は今やっているのは、数学的には上から抑えていた  \pi < 2\sqrt{2}E\left( \frac{1}{2} \right) に過ぎない。
これを下から抑えようとすると、 nは有限で a \rightarrow \infty の時に線分の長さが最小になることを使うと、 0 \le x \le 2 \pi区間における線分の長さは 2 \piであり、 \pi \le \piという極当たり前の結果が得られる。

まぁ楕円積分中にも \piが入っているから、堂々巡りは堂々巡りなのだが、楕円積分に初めて触れるには丁度良いテーマだったのではないかと思っている。