特殊相対論(古典力学)の導入でガリレイ変換とローレンツ変換(ローレンツブースト)を比較することが多いが、そもそも量子力学でのガリレイ変換ってなんだ?と思い、簡単に考察。
以下のpdfを参考にした。
http://cat.phys.s.u-tokyo.ac.jp/lecture/QM_1_11/quantum1.pdf
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/09-faculty-of-engineering-jp/quantum-theory-for-electrical-and-electronic-engineering/pdf/chap11.pdf
一次元を考える。
静止系に対して、速度で等速度運動している運動系を定義する。
例えば、静止系においてで運動しているものは、運動系では、つまり止まって見える。
このように、運動物体に合わせた運動系を取ると、問題が簡単になる。
やりたいことは、「(簡単に解ける) (実際に観測する)」の変換である。
時間に依存しないシュレーディンガー方程式において、時間依存性は無視してしまいがちだが、上記の通りガリレイ変換で位置と時間が混ざるので、時間依存性が発生する。
したがって、時間依存性を含めた形で波動関数を書いておいた方が良い。
ここで、質点力学と場の理論の間の注意について触れたい。
質点力学では、質点の位置を「軌跡」という形で物体の運動を表していた。
つまり、求めたい質点の位置は時間だけの関数であり、座標の位置の関数ではない。
これによって、ニュートン方程式は、力をポテンシャルの勾配を使って表せば、
というように、軌跡が時間にしか依存していないことと、等速直線運動が時間に線形であることによって、ガリレイ変換に対して方程式が不変になっている。
一方で、電磁気学や量子力学は質点の物理ではなく、各座標の上で何かしらの特徴(密度など)が定義されている。これが場の理論と言われる由縁である。
そのため、座標系が変わっても、それらの間で正しく同じ場所を指し示していれば、得られる値は(直感的には)同じであると考えられる。
上のニュートン方程式の例で言えば、ポテンシャルの変換がそれに当たる。ややこしいが、ポテンシャルは場の量(位置、時間に依存した量)なので、上記の変換は妥当である。
波動関数で表現すれば、運動系の波動関数が先に求まっているとすると、静止系の波動関数は
ということが予想される。
しかし、運動量(とエネルギー)に着目すると、これだけでは上手く行かないことがわかる。
それは、の間をただ移す操作を行っても、その座標上の運動量は変わってくれないため、運動座標系の持つ運動量が合成されない。
平面波に対して確認してみると、規格化定数をとして
となり、エネルギーのみが変化してしまう全く不満足な結果が得られる。
そのため、座標系における運動量の見え方の違いをどこに求めるか?ということになる。
量子力学では、波動関数は観測量ではなく、その二乗である「密度」が観測量である。
そのため、波動関数そのものの一致を要請するのは条件が厳し過ぎるので、密度が一致するように変更する。
それは、位相因子の付与を許容することと等価である。
仮に、が複素数の場合、密度の一致を満たさなくなるので、は実数であることが必要。
この時に、シュレーディンガー方程式がガリレイ変換を満たすようにを定める。
それぞれの微分係数は、
元々の静止系のシュレーディンガー方程式は、
したがって、を左から掛けて簡単にすると、
との係数がそれぞれゼロになるように条件を課すと、まずからが求まる。
したがって、の二階微分はゼロになり、簡単に解ける。
よって、位相因子は、積分定数を除いて、
と求まる。
得られた結果を平面波に対して確認してみると、
きちんと運動量が合成されているのがわかる。
ではこの位相変化はどこから来るのか?
参考にしたpdfに明快な考察があった。
https://ocw.kyoto-u.ac.jp/ja/09-faculty-of-engineering-jp/quantum-theory-for-electrical-and-electronic-engineering/pdf/chap11.pdf
元々、シュレーディンガー方程式は波動関数に対する方程式であり、それを密度の一致に条件を緩めた時点で、ガリレイ変換に対して不変な方程式ではないことがわかる。
観測者間の変換問題を満たすためには、特殊相対論に拡張してローレンツ変換を考える必要がある。
電子の場合には、運動系に対するディラック方程式の解を、ローレンツ変換を使って静止系に繋げば良い。これによって、位相も含めてダイレクトに波動関数同士を繋げられる。
運動エネルギーが静止エネルギーよりも十分小さい時、静止エネルギーによる位相を括り出すことができる。
ローレンツ変換は以下で与えられる。
したがって、の二次まで拾えば、
となり、ガリレイ変換で出てきた位相変化を再現する。
つまり、非相対論であるシュレーディンガー方程式でも、静止エネルギーによる影響は無視出来ないレベルで入って来ていてることがわかる。
相対論による僅かな時間のズレが、静止エネルギーを通して、運動量および運動エネルギーのズレに変換されるのは、なかなかに衝撃だと思う。