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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

量子揺らぎと不確定性原理

量子揺らぎと不確定性原理について言及してある記事を下記サイトで見つけた。
第一原理計算入門 密度汎関数法 理解への道

「量子揺らぎ」と聞くと、何だかよくわからないが、要は「状態が混ざる」ということである。

古典的な意味の平均(期待値) < x >および分散 (\Delta x)^2は、確率 pを用いて、

\displaystyle
< x > = \sum_i x_i p_i
\\
\displaystyle
(\Delta x)^2
  = < ( x - < x > )^2 >
  = \sum_i ( x_i - < x > )^2 p_i
\\
\displaystyle
  = \sum_i ( x^2_i - 2 x_i < x > + < x >^2 ) p_i
\\
\displaystyle
  = \left( \sum_i x^2_i p_i \right) - 2 < x > \left( \sum_i x_i p_i \right) + < x >^2 \left( \sum_i p_i \right)
\\
\displaystyle
  = < x^2 > - < x >^2 
\\
\displaystyle
 \left(\because \sum_i p_i = 1  \right)
と書ける。

これを量子力学的に書けば、演算子 \hat{A}固有値 aとすると、

\displaystyle
< A >_{ \varphi } = \sum_i a_i | < a_i | \varphi > |^2
\\
\displaystyle
( \Delta A_{ \varphi } )^2 \equiv < A^2 >_{ \varphi } - < A >^2_{ \varphi }

 \varphiが離散的で、規格化が問題なく定義出来る場合には、 <>_{ \varphi } = 1であるため、古典的な場合と同じ方法で分散を導出できる。
しかし、 \varphiが連続量(例えば位置や運動量)の場合、デルタ関数規格化を採用していると <>_{ \varphi } = \inftyとなるため、分散を上記の様に定義するしかない。それでも、分散としての機能を果たしているので、問題は無い。

不確定性原理は、位置演算子 \hat{x}と運動量演算子 \hat{p}_xが交換しないというものであり、ここから位置と運動量は同時に決めることが出来ないということが導かれる。

\displaystyle
 [\hat{x} , \hat{p}_x ] = \hat{x} \hat{p}_x - \hat{p}_x \hat{x} = i \hbar \neq 0

一般に、異なる演算子が交換する場合には、固有状態を同時に両方の固有値を持つことが出来る。

\displaystyle
 [\hat{A} , \hat{B} ] = 0 \rightarrow | a, b >
つまり、 a bを同時に決定出来る。(ただし、aとbが独立という意味では必ずしもないことに注意)
むしろ、同時に指定しなければ、完全に状態を決定したとは言えない。
決定出来るという意味は、分散を見るとより明らかだろう。

\displaystyle
< A >_{ a_0, b_0 } = \sum_i a_i | < a_i, b_i | a_0, b_0 > |^2 = \sum_i a_i \delta_{ i 0} = a_0
\\
\displaystyle
( \Delta A_{ a_0, b_0 } )^2 \equiv < A^2 >_{ a_0, b_0 } - < A >^2_{ a_0, b_0 } = a_0^2 - a_0^2 = 0
したがって、分散はゼロになり、 b_0状態を指定しても、 a_0が分散無く求まることがわかる。

一方で、演算子が交換しない場合には、両方の固有値を同時に持つ状態が存在しない。

\displaystyle
 [\hat{C} , \hat{D} ] = f \neq 0 \rightarrow \hat{C} \hat{D} = \hat{D} \hat{C} + f
\\
\displaystyle
if \quad | \varphi > = | c, d >
\\
\displaystyle
\hat{C} \hat{D} | \varphi > = \hat{C} \hat{D} | c, d > = d \hat{C} | c, d > = c d | c, d >,
\\
\displaystyle
( \hat{D} \hat{C} + f ) | \varphi > = ( c d + f ) | c, d > \neq c d | c, d >
\\
\displaystyle
\therefore | \varphi > \neq | c, d >

この時、片方の演算子の固有状態を、もう片方で展開して表そうとすると、複数の状態の混ぜ合わせる必要が出てくる。

\displaystyle
  | c > = \sum_i | d_i > < d_i | c > = \sum_i c_{d_i} | d_i > 
\displaystyle
\\
c_{d_i} \equiv < d_i | c >
 c_{d_i} は展開係数であり、仮に c dが同時に決まるのであれば、展開係数は一つの状態でしか値を持たないが、演算子が交換しない場合には複数の状態が混ざるように展開係数が定まる
これが量子揺らぎである。

つまり、固有状態でないもので期待値を取ると、分散はゼロでないということである。(同時固有状態でないと言っても、その状態の固有値で分散を取ればゼロである)
展開係数を用いれば、

\displaystyle
< A >_{ \varphi } = \sum_i a_i | c^{\varphi}_{ a_i } |^2
\\
\displaystyle
( \Delta A_{ \varphi } )^2
  = \sum_i a^2_i | c^{\varphi}_{ a_i } |^2 - \left( \sum_i a_i | c^{\varphi}_{ a_i } |^2 \right)^2

仮に二状態のみが寄与するとすると、

\displaystyle
  | c^{\varphi}_{ a_1 } |, | c^{\varphi}_{ a_2 } | < 1
\\
\displaystyle
  | c^{\varphi}_{ a_1 } |^2 + | c^{\varphi}_{ a_2 } |^2 = 1
\\
\displaystyle
( \Delta A_{ \varphi } )^2
  = \left( a^2_1 | c^{\varphi}_{ a_1 } |^2 + a^2_2 | c^{\varphi}_{ a_2 } |^2 \right) - \left( a_1 | c^{\varphi}_{ a_1 } |^2 + a_2 | c^{\varphi}_{ a_2 } |^2 \right)^2
\\
\displaystyle
  = \sum^2_{i=1} a^2_i ( | c^{\varphi}_{ a_i } |^2 - | c^{\varphi}_{ a_i } |^4 ) - 2 a_1 a_2 | c^{\varphi}_{ a_1 } |^2 | c^{\varphi}_{ a_2 } |^2
このように、複数状態が混ざると分散が有限になり、量子力学的な状態に揺らぎが生じている。

位置と運動量で言えば、 < {\bf r} | {\bf k } > \propto \exp( i {\bf k } \cdot {\bf r} ) であるから、運動量固有状態には無限の数の位置固有状態が含まれていることになり、位置揺らぎが無限となる。

「位置と運動量が同時に定まらない」だけで済めばまだ良いが、実際はもっとこれが広範囲に影響している。
考えてみれば当たり前だが、「位置と運動量が同時に定まらない」=「位置と運動エネルギーが同時に定まらない」と等価である。

\displaystyle
  [ \hat{H}_0, \hat{\bf r} ] \neq 0
そして、運動エネルギーと位置が交換しないということは、位置に依存したポテンシャルも同時に定まることがない。

\displaystyle
  [ \hat{H}_0, V( {\bf r} ) ] \neq 0

これにより、電子間相互作用は互いの電子の位置に依存しているため、多電子ハミルトニアン H_mは一電子ハミルトニアン H_1と交換しないことがわかる。

\displaystyle
  [ \hat{H}_1, \hat{H}_m ] \neq 0
電子間相互作用によって、多電子固有状態は、複数の電子配置(一電子固有状態の積)が混ぜ合わさったものになる。
混ぜ合わせる前と比べて計算結果が改善するため、混ぜ合わせたことによる効果を配置間相互作用と呼び、配置間相互作用を電子相関と呼ぶことが多い(ただし分野に依る)。
したがって、(最後、議論が粗いが)電子相関は(配置間相互作用無しの状態からの)量子揺らぎと言える。