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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

スペクトル解析のコヒーレンスとアンサンブル平均

以前に相関関数をいろいろまとめた。
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しかし気になったのは、「今のコヒーレンスの定義では 1 にしかならないのではないか?」という点である。


\displaystyle
s_{fg}( k ) = f^*( k ) g( k )
\\
\displaystyle
s_f( k ) = \left| f( k ) \right|^2, \qquad s_g( k ) = \left| g( k ) \right|^2
\\
\displaystyle
{\rm coh}^2_{fg}( k ) = \frac{ \left| s_{fg}( k ) \right|^2 }{ s_f( k ) s_g( k ) }
 = \frac{ ( f^*( k ) g( k ) ) ( f( k ) g^*( k ) ) }{ \left| f( k ) \right|^2 \left| g( k ) \right|^2 }
 = 1

広島大の講義ノートにクロススペクトルの意味についての記述を見つけた。
https://home.hiroshima-u.ac.jp/nishino/Classforundergraduate/Keisoku/keisoku2shou.pdf
しかし、フーリエ変換しているのになぜか変換前の引数に依存しているし、百歩譲ってそれは良しとしても、平面波から勝手に \cos関数が出て来ているし、意味不明である。

ポイントは、アンサンブル平均にある。
何回か同じ測定をして、データのセットが N個あるとすると、

\displaystyle
\bar{ x } \equiv \frac{ 1 }{ N } \sum^N_{ i = 1 } x_i

簡単のため、今 N=2として各スペクトルのアンサンブル平均を求めると、

\displaystyle
\bar{ s }_f( k ) = \frac{ | f_1( k ) |^2 + | f_2( k ) |^2  }{2}, \qquad \bar{ s }_f( k ) = \frac{ | f_1( k ) |^2 + | f_2( k ) |^2  }{2}
\\
\displaystyle
\bar{ s }_{fg}( k ) = \frac{ f^*_1( k ) g_1( k ) + f^*_2( k ) g_2( k )  }{ 2 }

これらを用いてコヒーレンスを計算すれば、

\displaystyle
{\rm coh}^2_{fg}( k ) = \frac{ \left| \bar{ s }_{fg}( k ) \right|^2 }{ \bar{ s }_f( k ) \bar{ s }_g( k ) }
 = \frac{ | f_1 |^2 | g_1 |^2 + f^*_1 f_2 g_1 g^*_2 + f_1 f^*_2 g^*_1 g_2 + | f_2 |^2 | g_2 |^2 }{ | f_1 |^2 | g_1 |^2 + | f_1 |^2 | g_2 |^2 + | f_2 |^2 | g_1 |^2 + | f_2 |^2 | g_2 |^2 }
\\
\displaystyle
 = \frac{ | f_1 |^2 | g_1 |^2 + 2 \Re \left( f^*_1 f_2 g_1 g^*_2 \right) + | f_2 |^2 | g_2 |^2 }{ | f_1 |^2 | g_1 |^2 + | f_1 |^2 | g_2 |^2 + | f_2 |^2 | g_1 |^2 + | f_2 |^2 | g_2 |^2 }

これで分母と分子に違いが出た。クロススペクトルによって、データセット間の fもしくは g同士の関係を考慮することが出来る。

したがって、このコヒーレンスはそもそも統計量に関するものであり、「入力と出力の波形がどれくらい似ているか」ではなく、「複数回測定しても強く再現される信号はどの波数成分か」を表すものと言える。(その意味で「相関」と言えなくもないが、相関関数の相関とは別な意味だと思う)
そのため、全てのデータセットが全く同じものの場合(もしくは一度しか測定を行わなかった場合)、コヒーレンスは常に 1 になる。