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基礎的なことこそ、簡単な例が必要だと思うのです。

ハミルトニアンの行列表示

J.J. Sakuraiのゼミをしていたとき、ハミルトニアンの行列表示について議論になった。

 \displaystyle
  H \doteq
  \begin{pmatrix}
  H_{11} & H_{12} & \cdots & \\
  H_{21} & H_{22} &        & \\
  \vdots &        & \ddots & 
 \end{pmatrix}

Diracのbraketを用いた表示で書けば、

 \displaystyle
  H \doteq
  \begin{pmatrix}
  <1|H|1> & <1|H|2> & \cdots & \\
  <2|H|1> & <2|H|2> &        & \\
  \vdots &        & \ddots & 
 \end{pmatrix}

となる。
Sakuraiだと、イコールではないことを強調して一応 \doteqを用いてはいるものの、結構ポッと出な感もあるし、何よりも <1|H|1>の中の Hは外の Hとどう違うの?とか、もう一回中に代入するってこと?みたいな誤解が起きることが分かった。確かに H \psi(x) = E \psi(x) に直接行列表現ぶち込もうとすると訳分からんことになる。

ポイントは一本の二階微分方程式を解くモードか、微分を含まない連立方程式で解くモードかということだと思っている。

シュレーディンガー方程式から出発して、全然分からん固有状態 \phiを素性が良くわかっている固有状態 \phi_iで展開する(例えば何にも相互作用の無いときの固有状態である平面波とか)。

 \displaystyle
  H |\psi> = E |\psi> \\
  H ( C_1 |\phi_1> + C_2 |\phi_2> + \cdots ) =  E ( C_1 |\phi_1> + C_2 |\phi_2> + \cdots )

ここで、例えば <\psi_1|を左から掛けることで、 H|\psi>にどれだけ \phi_1の情報が含まれているかを見る様なことをすると、

 \displaystyle
 <\phi_1| H |\psi> = <\phi_1| E |\psi> \\
 C_1 <\phi_1|H|\phi_1> + C_2 <\phi_1|H|\phi_2> + \cdots =  E C_1

これを他の状態 <\phi_i|でもやってあげれば、展開係数 C_iに関する連立方程式が出来る。

 \displaystyle
 C_1 <\phi_1|H|\phi_1> + C_2 <\phi_1|H|\phi_2> + \cdots =  E C_1 \\
 C_1 <\phi_2|H|\phi_1> + C_2 <\phi_2|H|\phi_2> + \cdots =  E C_2 \\
  \vdots

ここまで、 H微分方程式シュレーディンガー方程式)のハミルトニアンのままであり、別に変なことはしていない。この連立方程式を行列でまとめて書くと、

 \displaystyle
  \begin{pmatrix}
  <\phi_1|H|\phi_1> & <\phi_1|H|\phi_2> & \cdots & \\
  <\phi_2|H|\phi_1> & <\phi_2|H|\phi_2> &        & \\
  \vdots &        & \ddots & 
 \end{pmatrix}
 \begin{pmatrix}
  C_1 \\
  C_2 \\
  \vdots 
 \end{pmatrix}
  =
  \begin{pmatrix}
  E &   &        & O \\
    & E &        &   \\
  O &   & \ddots & 
 \end{pmatrix}
 \begin{pmatrix}
  C_1 \\
  C_2 \\
  \vdots 
 \end{pmatrix}

という具合になる。
なので、 E,\psiを求める問題が、 E, C_iを求める問題にすり替わり、特に Eを求めたければ C_iは必要なく、

 \displaystyle
  \begin{vmatrix}
  <\phi_1|H|\phi_1> - E & <\phi_1|H|\phi_2>     & \cdots & \\
  <\phi_2|H|\phi_1>     & <\phi_2|H|\phi_2> - E &        & \\
  \vdots                &                       & \ddots & 
 \end{vmatrix}
  = 0

を解きさえすれば良い(これがゼロでない場合には、上の行列に逆行列が存在して、 C_i = 0(つまり \psi = 0)という全然興味のない答えしか得られないため、ゼロ出ないことを条件付ける訳である)。
そうすると、 H微分方程式における具体的な表式は、「行列要素の値が求まっていれば」どうでも良くなり、行列形式で問題を扱って行くときにいちいち違う記号を用いるのは煩雑になる(人によって違う記号を使いだすと多分ヤバい)ので、同じ Hを使っているのだと理解している。
最初の話に戻ると、行列の中の Hは実際のシュレーディンガー方程式の Hで、 \doteqの左側にいる Hはただ Hという記号を使っている行列ということになる。